小 熊 座 句集 『朝の日』抄 佐藤 鬼房
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   2004年  東吉野村の句碑               句碑の句
    
    




 後列左 山田美穂さん(鬼房の長女)
 後列  鬼房夫人 ふじゑさん
 前列右 渡辺編集長
 渡辺さんの隣 高野ムツオ主宰












   句集   『朝の日』抄 佐藤鬼房(自選)   昭和30年〜39年


      寒中鰡に呼ぼるる何の酔ひ
 
      猟師
(またぎ)消ゆ老いも死もなく雪空に

      諸手あぐさま立春の雑木山

      出直ししの死を選ぶべし梅見頃

      うすうすと日ざせば空に春の魚

      打ちおろす斧が地を噛む春の暮

      黄水仙かすかにくらき野の眺め

      藍いろの火がきつとある桜の夜

      陸前のとある岩間のみなし蟹

      祖父淡く魚礁のほとり過ぎつつあり

      川蝉の川も女もすでに亡し

      蝉の穀拾ふも捨つもふたつ指

      赤沼に嫁ぎて梨を売りゐたり

      籾穀火よみの国まで燻らする

      余生とや土筆野にわれありて莫し

      夭折のかのうま酒や春の鳶

      風光る海峡のわが若き鳶

      生きてまぐはふきさらぎの望の夜

      昂然とおのれ消えゆく雪のひま

      春蝉や山の平に肘枕

      夏鳥はわが化身なれ沖つ石

      霧の葛一葉二葉とひるがへる

      南無枯葉一枚の空暮れ残り

      南無枯葉一枚の地にひざまづく

      山祇の土になれゆく小楢の実

      漂行の鳥影は祖父片しぐれ

      年立つて耳順ぞ何に殉ずべき

      燭暗き裸詣のひとたむろ

      ゲレンデの深夜を乳呑児が歩く

      沖鳴りの一夜明けたる牡丹の芽

      クリスタル光彩春のかもめどり

      山泉汲むや朝の日幾すぢも

      蝙蝠傘の骨が五月の砂山に

      眉青く芒種の空を降りきたる

      ただ蒼し蚊の目無数の歳月は

      肉焙るりゐる七夕のはしけ舟
 
      艮
(うしとら)に怺へこらへて雷雨の木



  
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